JAXA-はやぶさ2-

宇宙科学研究所(ISAS)は神奈川県相模原市に位置し宇宙開発や宇宙科学の研究を主に行っている、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の組織の一部です。もともとはペンシルロケットの開発に始まる日本の宇宙開発を先導し日本の宇宙開発の父と言われる糸川英夫氏が中心となって発足した東京大学の研究機関の一つでしたが、1981年に東京大学から文部省に移管され、文部省宇宙科学研究所に改組されました。さらに2003年には宇宙開発事業団(NASDA)、航空宇宙技術研究所(NAL)と統合されJAXAが発足します。当時は宇宙科学研究所本部という名称でしたが2010年には宇宙科学研究所に改称され今に至ります。 宇宙科学研究所はJAXAのメンバーだけでなく、東京大学を含め全国の大学と緊密に連携できる体制を整えており、大学の研究者たちと協力しながら活動を行っています。研究室・実験室のある研究・管理棟や、ロケットや人工衛星の性能や強度など様々な試験を行う各種試験棟・実験棟、また宇宙科学研究所の歴史やミッションの紹介などの展示を一般向けに行っている宇宙科学探査交流棟などの施設で構成されています。 宇宙科学研究所では天文観測、太陽系科学、宇宙環境利用科学などの宇宙科学研究を促進するとともに、それらの研究ミッションの実現に向けて宇宙工学分野の開発を行い、宇宙開発への多大な貢献をしています。研究領域は大気球などの比較的低高度(約50km)で行う観測から、高度400kmを飛行する国際宇宙ステーション、地球近傍で磁気圏や太陽活動、天体などの観測、さらには地球の衛星である月やもっと遠くの惑星、小惑星を観測・探査する科学衛星や探査機まで、非常に多岐に渡ります。現在も、宇宙の新たな領域の開発に向けて様々なミッションが運用・開発中です。未知の領域が広がる宇宙の解明に向けて、宇宙科学研究所は挑戦を続けています。これからの宇宙開発の促進に宇宙科学研究所の活躍が期待されます。

はやぶさ2インタビューコーナー

はやぶさ2は2020年に小惑星リュウグウからのサンプルリターンを成功させ、人類の宇宙探査史において先駆的な偉業を成し遂げました。現在はやぶさ2は拡張ミッションとして小惑星1998KY26に向かって飛行を続けています。はやぶさ2は初代はやぶさの技術を受け継いでいますが、小惑星にインパクターという衝突装置を用いて人工クレーターを作るなど、新しい技術にも果敢に挑戦しました。はやぶさ2のミッションはいかにして成功に導かれ、今後の宇宙探査はどのような方向に進むのか、またはやぶさ2ミッションを支えた方々の学生時代についてもお聞きします。今回は、はやぶさ2ミッションのプロジェクトマネージャーである津田雄一先生と、インパクター 装置を開発された佐伯孝尚先生にインタビューをしてお話をお聞きしました。

津田雄一先生

1975年生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。同大学院航空宇宙工学専攻博士課程終了。現宇宙科学研究所教授。2015年、史上最年少ではやぶさ2プロジェクトチームプロジェクトマネージャーを務める。

佐伯孝尚先生

1976年、広島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。2005年、JAXA深宇宙探査センター 宇宙航空プロジェクト研究員。三菱重工業(株)名古屋誘導推進システム製作所を経て、2009年7月より宇宙航行システム研究系/月・惑星探査プログラムグループ 助教。

ミッションの紹介

「はやぶさ」

「はやぶさ」は、将来の本格的なサンプルリターン探査に必要な技術を実証することを目的とした探査機です。2003年にM-Vロケット5号機で打ち上げられ、地球スイングバイを経て2005年に小惑星イトカワに到着、着陸や帰還にあたっては通信途絶やエンジンの異常停止など多くの困難に見舞われながらも2010年にカプセルを地球へ帰還させました。はやぶさはイオンエンジンを用いた惑星間航行、自律的な航法と誘導による着陸、微小重力下での標本採取、再突入カプセルによるサンプルリターンという、4つの重要技術の実証を行いました。この技術ははやぶさ2をはじめとした後の探査に生かされています。さらに、イオンエンジン3台の同時運転や長時間稼働、イオンエンジンを併用しての地球スイングバイ、小惑星への着陸・離陸、月よりも遠い天体からのサンプル採取および地球への帰還など、数々の世界初を達成しました。「はやぶさ」が辿り着いた小惑星イトカワは直径500m程度のごく小さな天体です。「はやぶさ」は約2ヶ月半滞在し、カメラや高度計といった4種類の観測機器を用いてイトカワの地形や組成などを細かく観測しました。「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の分析により、イトカワの母天体の情報や、天体衝突・物質変化の証拠など多くの知見が得られており、太陽系の過去を読み解く重要な手がかりとなっています。

「はやぶさ2」

「はやぶさ2」は、初代「はやぶさ」の後継機として小惑星サンプルリターンを行った宇宙機の事です。「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワとは別の種類の小惑星リュウグウを探査することにより、惑星の起源だけでなく地球の海の水の起源や生命の原材料をも探求することが目的でした。「はやぶさ2」のミッションは、「はやぶさ」で行ったタッチダウンなどのミッションを踏襲する一方、小惑星表面に人工的なクレーターを作り地下のサンプルを持ち帰るといった新しい技術にも挑戦していきます。今現在、「はやぶさ2」はリュウグウとは別の天体に向けて拡張ミッションを継続中です。
このコーナーでは「はやぶさ2」のミッションの様子などを宇宙科学研究所の動画とともに紹介していきます

「はやぶさ2」のミッションについて

小惑星探査機「はやぶさ2」は2014年12月3日22分4秒に打ち上げられました。実は打ち上げの時刻は秒単位で決定されていています。これはあらかじめ最適な軌道が計算されており、その軌道を達成するために秒単位で打ち上げを最適化しているからです。
1秒でもこの時間からずれてしまうと最適な軌道に戻すために余分な燃料を使う必要があり、重量に厳しい制約がある宇宙機ではこのような損失を避けることが求められるのです。元々は2014年11月30日13時24分48秒に打ち上げが予定されていたのですが、延期された結果上述の打ち上げ時刻になりました。
(クレジット:JAXA)

「はやぶさ2」は2014年12月に打ち上げられ、2020年12月に地球へと帰還するまでおよそ6年間の旅をしたことになります。因みに、相対性理論によると速度を持つ物体の時間は歪むことが知られていて、「はやぶさ2」ではこの効果によって地球到達時に地球よりも累計で0.455秒早く時間が流れていた(「はやぶさ2」の方が年を取っていた)そうです。動画ではその長い旅路を短くまとめて紹介しています。
(クレジット:JAXA)

初代「はやぶさ」でも行われた小惑星へのタッチダウンは、「はやぶさ2」では衝突試験を行った後、そのクレーター付近にもタッチダウンすることで計2回タッチダウンしました。初代「はやぶさ」では小惑星に落としたターゲットマーカーがある場所を目指した一方、「はやぶさ2」ではターゲットマーカーとは別の場所に、マーカーを頼りにタッチダウンするなど技術的な進歩がありました。動画は1回目のタッチダウンの様子をとらえたものです。
(クレジット:JAXA)

6年にも渡る長旅を終えて「はやぶさ2」は2020年12月に地球へと帰還します。「はやぶさ2」から分離されたカプセルは地球の大気圏に突入し無事にオーストラリア大陸ウーメラ砂漠に着陸、JAXAに回収されました。持ち帰った試料は約5.4g。当初目標としていた0.1gを大きく上回る量のサンプルが回収され、各種研究機関で太陽系初期のままの姿を知れる貴重な試料として研究されています。
無事にサンプルリターンを成し遂げた「はやぶさ2」にはイオンエンジンの燃料(キセノン)が半分ほど残っており、この燃料を用いて新しい探査を行うことが決定されます。事前調査されていた候補から残燃料などを加味して1998KY26という天体が次なる探査目標になりました。この小惑星は直径が30m程で900m程のリュウグウよりもはるかに小さい天体です。自転の周期はおよそ10分で、惑星表面では重力よりも遠心力が卓越する科学的に非常に興味深い天体です。このような天体は地球へ衝突する可能性もあり、将来地球を小惑星から守るための研究も行われる予定です。「はやぶさ2」が1998KY26へ到達するのは2031年7月、そこでどのような発見が待っているのでしょうか?
(クレジット:JAXA)

小惑星リュウグウについて

小惑星リュウグウは岩石の中に水や有機物を含むC型小惑星で、初代「はやぶさ」が調査した小惑星イトカワとは別の種類の小惑星になります。直径は900mほどで、約7時間38分で自転しています。動画はこの自転の様子を「はやぶさ2」のカメラがとらえたものです。
このリュウグウから「はやぶさ2」が持ち帰った試料は約5.4gで当初目標としていた0.1gを大きく上回る量のサンプルを回収できたことになります
(クレジット:JAXA、東大など)

小惑星リュウグウには日本人になじみが深い名前が多く使われています。図にある名前は一部(注)を除いて国際天文学連合(IAU)に認められた公式の名称なのですよ。図のTDはタッチダウンが行われた場所を指しています。
(注)注:「トリトニス」、「アリスの不思議の国」、「たまてばこ」はニックネーム(愛称)で、IAUに認められた地名ではありません。
(クレジット:JAXA)

「はやぶさ2」に搭載された機器たち

小惑星リュウグウの情報を得るため、リュウグウにタッチダウンを成功させるため、「はやぶさ2」には様々な観測機器が搭載されています。動画ではこの観測機器を紹介しています。
(クレジット:ISAS/JAXA)

「はやぶさ2」に搭載された4機の小型着陸機も大きな特徴の一つになっています。搭載された2機のMINERVA-Ⅱ1はJAXA宇宙科学研究所が主となって開発した機体で、小惑星に降り立ち自律して移動探査を行った世界で最初の機体となっています。MINERVA-II2は東北大学・東京電機大学・大阪大学・山形大学・東京理科大学が参加する大学コンソーシアムによって開発された探査機です。もう1機の着陸機MASCOTはドイツとフランスの共同開発によって製作された機体で日仏独の協力によってリュウグウに降り立つことが出来ました。
(クレジット:ISAS/JAXA)

衝突装置にはミスナイ・シャルディン効果という物理現象を応用しています。円錐状の爆薬によって、その先にある銅板を吹き飛ばし、球殻状に変形させて射出します。「はやぶさ2」では2kgの弾丸を秒速2km(ちなみにライフル銃では秒速1km程度)程で発射しました。この小惑星への衝突試験は世界初でリュウグウの内部構造に関する情報を得るために行われました。
(クレジット:JAXA)